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映画をぶっ壊せ!!『ハリー・ポッターと賢者の石』編③:第一幕・弐

このブログを読む前に一つだけ。思いっきりネタバレします。

冒険前夜

第一幕・壱」の続きをぶっ壊していこう。

ステージ3:冒険への拒絶

  1. 日常の世界
  2. 冒険への誘い
  3. 冒険への拒絶
  4. 賢者との出会い
  5. 第一関門突破
  6. 試練、仲間、敵対者
  7. 最も危険な場所への接近
  8. 最大の試練
  9. 報酬
  10. 帰路
  11. 復活
  12. 宝を持っての帰還

このステージははヒーローが冒険に対して抱く恐怖を表現したステージである。(中略)冒険の出発点で恐怖に立ちすくみ、ためらったり、少なくとも一時的なコール(誘い)を拒絶するのは当然のことである。

冒険の誘いを受けた主人公はどうなるのか。自分に置き換えてみたらわかると思うけれど、「躊躇する」。これが自然な反応だろう。前触れもなくいきなり新しい世界に来いと言われりゃそりゃね。

だから主人公もいろいろな形で誘いを断る。ただし、一時的にだ。そうでないと物語が終わってしまうから。
例えば、隠居した伝説の人物が、大きな事件をきっかけに呼び戻されたりするが、頑なに断る。しかし、結局断れないやんごとなき事情が出てきて現場に戻る。みたいな物語は一度は聞いたことがあるんじゃなかろうか?

「冒険への拒絶」については、数え切れないほどたくさんの映画の中で見て取れる。
『インターステラー』では、娘の住む地球を救うために、娘を置いて宇宙へ旅立つ時の主人公クーパーの葛藤は激しいものだった。
『セブン』では、引退間近のサマセット刑事は、新たな事件に関わることを頑なに拒否していた。
『ヱヴァンゲリオン新劇場版・序』では、3年ぶりにあった父親にいきなりエヴァに乗れと言われて、可愛そうなシンジくんは当然拒否した。

これらはすべて、「冒険への拒絶」だ。ヒーローたちも不安で、面倒で、恐怖する。そんな人間らしい一面を見せることで、観客が共感しやすくなるのだ。

しかし、これは一時的な拒絶。主人公たちは意を決して新しい世界に踏み出す。だからこそ主人公が主人公である所以なんだ。主人公は逃げずに立ち向かう。
クーパーは娘に必ず戻ると約束して旅立ち、サマセット刑事はあまりに残虐な事件すぎて否応なく参加させられ、シンジ君は綾波レイが苦しんでいるのを見てエヴァに乗ることを決心する。

さて、『ハリー・ポッターと賢者の石』はどうだろう。
ハリーはというと、拒絶する様子は見えない。むしろ初めて来た自分宛ての手紙は嬉しくて、ものすごく手紙を受け取りたがっている。めちゃくちゃ前向きだ。とまどいも迷いも、恐怖すらない。

この時点でハリーには拒絶する姿勢は見られない。しかし、断固冒険への拒絶をする人物がいる。ダドリーの父、バーノンだ。
魔法を拒絶したいのか、ハリーを拒絶したいのか、フクロウが運んでくる手紙をことごとく破り捨てる。絶対にハリーに読ませないバーノンと、絶対に手紙を読ませたいフクロウたちの戦いが始まる。あんなに大量の手紙が届けられたら、一通くらい読めんじゃなかろうかと思ってしまうシーンだが、ハリーはまったく読めない。バーノンが絶対にそれを許さないからだ。

見方を変えれば、バーノンは新しい世界への扉を守る「門番」のようにも見える。

ステージ5:第一関門突破

  1. 日常の世界
  2. 冒険への誘い
  3. 冒険への拒絶
  4. 賢者との出会い
  5. 第一関門突破
  6. 試練、仲間、敵対者
  7. 最も危険な場所への接近
  8. 最大の試練
  9. 報酬
  10. 帰路
  11. 復活
  12. 宝を持っての帰還

私達が関門に近づくとき、決まって私達の行く手を阻もうとするものに遭遇する。彼らはシュレスホールド・ガーディアン(門番)と呼ばれる、力強くて役に立つアーキタイプである。

クリストファー・ボグラー著, 神話の法則 ライターズジャーニー, 愛育社, 2002, p.495

アーキタイプについては後述するが、新しい世界に入るときに必ずと言っていいほど、それを阻む人物や事件が立ちはだかる。これは単に主人公を邪魔したいのではなく、試しているんだ。門番であるバーノンは、真剣に冒険へ踏み台したいかの意思を確認している。

物語の中で、くぐり抜けなければならない「関門」はたくさんある。しかし、このステージは、古い世界から新しい世界に最初の一歩を踏み出すという大きなイベントということで、インパクトのあるシーンを持ってくることが多い。ハリー・ポッターはどんなシーンを持ってきているのか。シーンに戻ってみてみよう。

12分19秒〜

日々フクロウの数が増え、手紙の数も尋常じゃないくらいハリーのもとに届けられる。バーノンは、意地でも読ませまいと、とうとうとんでもなく荒れ狂う海の真ん中に佇む小屋まで避難する。さすがのフクロウもこれはお手上げ。軍配がバーノンにあがり、物語がここで終了する危機が訪れるが、ここでフクロウより強力な「使者」が現れる。

日付が12時をまわり、ハリーが誕生日を迎えたその瞬間、大男がドアを破って入ってくる。ホグワーツ魔法魔術学校の鍵と領地の番人、ルビウス・ハグリッドだ。

驚いたバーノンは抵抗するが、大男のハグリッドは簡単にバーノンを押しのけ、ハリーに誕生日祝いのケーキを渡す。ハリーは人生で初めて人からそんなことをしてもらって心底うれしそう。そしてとうとうハグリッドから手紙を受け取るハリー。それはホグワーツ魔法魔術学校の入学許可証だった。

戸惑うハリー。さらに追い打ちをかけるようにハグリッドから、ハリーが魔法使いだということ、両親も魔法使いだということ事故で死んではいなかったこと、あろうことかそれをバーノンとペチュニアが知っていて隠していたことを知る。特にペチュニアの魔法使いの姉に対しての嫌悪感が凄まじい。

ハグリッド「この子の入学は生まれた時から決まってる。 世界一の魔法魔術学校、ホグワーツで学ぶんだ!それも!歴代校長の中でも最も偉大なる魔法使い…ダンブルドアドアの元でな」

ハリーにとって、11年間生きてきた辛い日常の世界は偽物だった。だからこそ、新しい世界への正体は恐怖どころか朗報だった。だから、出発のときに一瞬だけダーズリー家の方を振り返ってはみるが、すぐに前を向いて迷うことなくハグリッドに着いていくことにしたんだね。

ここで重要なのは、ハリーが納得して自ら新しい世界に足を踏み入れること。
まあ、気づかずに踏み入れる映画も、いやいや踏み入れる映画ももちろんあるけれど、重要な決断は主人公が自らするべき。ハグリッドに無理やり連れて行かれるような受け身な主人公は、あまり良しとされていない。だからこそ、ハグリッドもあえて最終確認をしてる。

ハグリッド「(時計を見て)おぉっ、ちぃと遅れ気味だ。じゃ、行こうか。ここにいたいなら、別だがな。ん?」

ここまでが、「冒険への誘い」だ。冒険に誘われ、拒絶され、自ら突破する
新しい世界に入るきっかけの直接的な事件が一通り完結した。下図でいう、左の黄色×の部分だ。

三幕構成のイラスト。第一幕に、インサイティングインシデント、プロットポイント1、第二幕の中間にミッドポイント、終わりにプロットポイント2、第三幕の中間にクライマックスが配置してある。
Bratislav – 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=25777267による

アーキタイプ

さて、話は少しそれるけれど、主人公は、決して一人だけで物語を進めていくのではなく、敵役も含めたさまざまな登場人物の後押しがあって、前に進んでいく。ハグリッドもハリーの背中を押す役割を持った人物の一人。このように登場人物にはそれぞれ役目があるんだ。

それを「アーキタイプ」と呼ぶ。
この言葉は、もともと心理学者カール・G・ユングが使っていた言葉。一般的な人格のタイプやシンボル、関係を説明するために使った言葉だ。

心理学者カール・G・ユングの写真。
カール・G・ユング

それをボグラーは物語の登場人物にも当てはまるとしている。

おとぎ話や神話の世界に足を踏み入れるとすぐに、どのような話にも共通するキャラクターのタイプとその関係が、何度も繰り返し使われていることに気づくだろう。

どんなアーキタイプがあるかというと、下図のようになる。すべては主人公(ヒーロー)を取り囲むように様々なタイプのアーキタイプが存在している。

クリストファー・ボグラーが著書神話の法則で書いた、アーキタイプの分布図。
クリストファー・ボグラー著, 神話の法則 ライターズジャーニー, 愛育社, 2002, p.495

ヒーロー
シュレスホールド・ガーディアン(門番)
トリックスター(いたずら者)
シャドウ(影/悪者)
ヘラルド(使者)
アライズ(仲間)
メンター(賢者)
ハイヤーセルフ(高次元の自己)

アーキタイプ:ヘラルド(使者)

この中の「ヘラルド(使者)」と呼ぶアーキタイプが、ハリーを迎えに来たハグリッドのアーキタイプとなる。

ヘラルド(使者)はヒーローに動機を与え、挑戦状を届け、ヒーロー(と観客)に変化と冒険が訪れることを警告する。

クリストファー・ボグラー著, 神話の法則 ライターズジャーニー, 愛育社, 2002, p.495

ちなみに「ヘラルド」の語源は古代ギリシャの伝令を指す言葉。王の伝令者として重要な役割を担っていた。
ハグリッドはまさにダンブルドア校長という王の伝令者なのだ。

ハグリッドは伝令者としてホグワーツの入学許可証という伝令をハリーに渡し、ハリーの出自を伝えることで、動機を与え、ハリーに新しい世界への冒険へと誘う。これがまさしく「ヘラルド」の役割だ。

アーキタイプ:シュレスホールド・ガーディアン(門番)

英語だと、”threshold gardian”。意味がイメージしづらいが、単に「門番」を意味する。

すべてのヒーローは冒険の途中で障害に遭遇する。新しい世界への入口には力強い番人がいて、そこに入る価値のないものを中に入れないように仁王立ちしている。

クリストファー・ボグラー著, 神話の法則 ライターズジャーニー, 愛育社, 2002, p.495

まさにフクロウの手紙を受け取らせない、バーノンがその役割を担っている。バーノンの役割としてはただの意地悪や、ましてやシーンの引き伸ばしなんかじゃなく、ハリーが新しい世界へ行く価値があるかを試しているんだ。もしハリーがその価値がない人間であれば、バーノンにいいくるめられて、手紙を受け取るのを諦めていたかもしれない。でも、ヒーローは絶対に諦めたりしない。

他にも様々なアーキタイプがいるけれど、それは話を進めながら解説していく予定。

なお、登場人物が物語の中で一つのアーキタイプをそれぞれ背負っているとは限らない。途中で役割が変わることもある。新しい世界から来た「ヘラルド」が「メンター(賢者)」になったり、時には「シャドウ(影)」になったりもする。これは物語によってさまざまで、これといったパターンはあまりない。

ここまで18分26秒くらい。これで第一幕の前半が終了。いい感じにぶっ壊すことができた。今回もいろいろなパーツを発見することができた。物語は奥が深くて面白い。みんなが少しでも興味を持ってくれたら嬉しい。

さて、いよいよ次回はハリーが魔法の世界へと入っていく。

映画は、みんな素晴らしい。

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