このブログを読む前に一つだけ。思いっきりネタバレします。
わが君の登場
前回から第三幕をぶっ壊しているけれども、最後の試練をクリアしたハリーは、一人きりで最後の決戦に挑む。今日はそこが始まりだ。
真犯人
2時間6分57秒〜
ハリーが階段を降りて最奥へ進むと、みぞの鏡とその前に立つ「ある人物」が見える。
ハリー「あなたが?まさかそんな!スネイプのはずだ!だって…」
ここで、満を持して真犯人の登場だ。その人物とは…「クィリナス・クィレル」。ターバンを被った吃音持ちの教師だ。この男が、一連の事件の犯人だった。トロールを引き入れたこと、クィディッチでハリーを殺そうとしたこと、全て彼が仕組んだことだった。
ハリーは驚いた。観客も驚いた。ここまでミスリードの積み重ねでスネイプに意識を寄せていたが、犯人は全く違っていて、スネイプはむしろハリーを助ける側だったと。こうしてクライマックスの幕開けは、衝撃の事実で始まる。かの古代のギリシャに生きたアリストテレスもこう言っている。
悲劇が人の心をもっとも動かす要素は、筋を構成する部分としての逆転と認知である。
アリストテレース著, 詩学/ホラーティウス著, 詩論, 松本仁助・岡道男訳, 岩波文庫, 1997年, p.356
これは悲劇を語ったものだけど、本作にもそれが通じる。
スネイプだと思っていた犯人が違った(逆転)、だけど、真犯人はクィレルだった(認知)。
このように、認知と逆転を伴うとき、おそれとあわれみを引き起こすと言う。要するに、「衝撃の事実」とか「どんでん返し」とかそんな類のもので、それが起きたとき、観ている私達の感情がものすごく動くということだ。どんでん返しが好きなのは紀元前の人たちも一緒だ。
そんな古代ギリシャ時代から脈々と受け継がれる、手法で観客を驚かせつつ、話が進んでいく。
クィレルはみぞの鏡を使った試練が解けず、ハリーに賢者の石のありかを聞き出そうとする。
鏡の前に立つハリーは、無意識のうちにその謎を解き、賢者の石を手に入れる。(無意識については後述)
ここで、前回説明したステージ9の「報酬」を手にれることが出来た。ハリーが一番求めていたものだ。
ボグラーは、この瞬間を「シージング・ザ・ソード(剣をつかみとる)」とも呼んでいる。まさに勇者が伝説の剣を抜き取るイメージだ。某ゲーム”◯ルダの伝説”の主人公◯ンクが、◯スターソードを抜く瞬間と似ている。その伝説の剣は最初から抜けるわけではなく、レベル上げという試練を超え、その剣に見合う力を持って初めて抜くことができる。
まさにハリーも、数々の試練を乗り越えて賢者の石という伝説の剣をつかみとったのだ。
また、ヒーローが手にする宝をエリクサーとも呼んだりもする。エリクサーは、すべての病を治し、様々な金属を変化させ、命を紡ぎ死を超越することもできる、いわゆる伝説上の「賢者の石」を作り出す工程の一つとして考えられている。

エリクサーは生死の秘密の扉であり、神から火を盗んだプロメテウス、エデンの園で禁断の果実を食べたアダムとイヴなど、様々に形を変えて神話の神々や伝説のヒーローたちがそれを手にしている。いずれもこの世のものではなく、特別なものしか立ち入ることができない聖域にそれは存在する。だから特別な力や資格を持ったヒーローだけが手にすることができるんだ。
そして、「報酬」(剣、エリクサー、宝)を獲得すると、すぐに「ステージ10:帰路」へ移行する。
ステージ10:帰路
- 日常の世界
- 冒険への誘い
- 冒険への拒絶
- 賢者との出会い
- 第一関門突破
- 試練、仲間、敵対者
- 最も危険な場所への接近
- 最大の試練
- 報酬
- 帰路
- 復活
- 宝を持っての帰還
さて、ヒーローズジャーニーも大詰めだ。この帰還とは何を意味するのか。
オーディール(最大の試練)から学んだ重要な教訓やリウォード(報酬)を祝って、咀嚼して自分のものにしたら、ヒーローはスペシャル・ワールドに残るのか、それともオーディナリー・ワールドへの帰還の旅を始めるのかという選択を迫られる。たとえスペシャル・ワールドが魅力的だとしても、自らそこに残るヒーローはほとんどいない。
クリストファー・ボグラー著, 神話の法則 ライターズジャーニー, 愛育社, 2002, p.495
ドロシーはいつまでもオズの国にはいられないということだ。カンザスにある自分の家に帰らなきゃならない。
賢者の石を手に入れたハリーも、一刻も早く危険な試練の間から帰還し、元の平和で安全な仲間の元に戻らなければならない。それがハリーにとっての「帰還」だ。
ここで多くの物語に登場するのが、「追跡シーン」だ。敵対勢力が(彼らから見たら)宝を奪った主人公に対して、その報復や復讐に燃え、ヒーローを殺し、その宝を奪い返そうとする。
このステージは「終幕への疾走」と呼ばれ、ストーリーのペースを上げ、ラストへ向けて展開を加速させるところでもある。
クリストファー・ボグラー著, 神話の法則 ライターズジャーニー, 愛育社, 2002, p.495
映画の構成的にも、目的を達成した瞬間に、スピード感が鈍化して盛り上がりにかけるシーンになりがちというのもあって、この追跡シーンは映画的にも便利なパーツなんだね。
本映画については、追跡シーンはないけれど、ハリーが賢者の石を手にした直後、痺れを切らした、”わが君”ヴォルデモートがハリーから賢者の石を奪い取るためについに登場だ。クィレルがおもむろにターバンを取ると、後頭部に寄生するヴォルデモートの醜い姿が現れる。彼は魂だけでかろうじて生き永らえており、他人に依存しないと生きていけない状態だ。それでも圧倒的な恐怖なヴィジュアルに観客も、息を呑む瞬間だ。
ストーリーを押し上げる起爆剤は、急激にストーリーの方向性を変える新しい展開や断片かもしれない。それはヒーローを新しい冒険の旅へ連れ出すもう一つのクライシス(重大局面)の瞬間の可能性もある。
この映画最大のクライシスだ。ハリーの両親を殺した張本人が目の前に現れる。
ハリーは逃げようとするも、クィレルの魔法に阻まれる。ヴォルデモートはハリーの力を警戒しているのか、懐柔しようとする。
ヴォルデモート「ハリー、この世に善と悪などないのだ。力を求める強き者と求めぬ弱き者がいるだけだ。わしとおまえなら全て思いのままにできる。さぁ、その石をよこせ!」
ハリー「この嘘つきめ!」
ヒーローは決して、甘い誘惑や恐怖に屈しない。最大の敵に対しても死を恐れず、自分の正義をつらぬく勇気がある。ハリーも例外ではない。前にも言ったけれど、ヒーローっていうのは誰にでもなれるわけじゃない。
全く屈しないハリーに、ヴォルデモートはキレ散らかし、クィレルにハリーを襲わせる。しかしハリーがクィレルの手を解こうと掴むと、クィレルの手が灰と化す。それでもクィレルはヴォルデモートの意のままに賢者の石を奪おうとする。ハリーはその不思議な力を使って、クィレルの顔を力いっぱい抑え、クィレルを灰にする。器が死に、魂だけになったヴォルデモートはハリーの体を突き抜けて、一目散に逃げていく。
敵を倒したハリーはそのまま気を失ってしまう。
これで「帰還」のステージは終わりだ。追手を撃退し、賢者の石という宝を持ち帰ることに成功する。
次回は「ハリー・ポッター賢者の石」の最終回。ヒーローズ・ジャーニーも残すステージはあと2つ。
今回もだいぶ長くなったけれど、あと少しお付き合いいただければ嬉しい。
ではまた。
映画は、みんな素晴らしい。

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